昔、「おしん」というテレビ・ドラマがあった。
私の父の、一番、上の姉の名前も 「しん」 であった。
但し、私は此の人に逢ったことはない。私が生まれる、遥か、前に亡くなったからである。
その年は明治何年だったかは後記するように、或る機会で知ることになる。
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以下は、私が子供の頃、父かたの親戚たちが何かの寄り合いで話していたことを、傍で聞くともなく私の耳に入ってきた話である。
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おしんさんは、確か、二十歳前に、或る職人のところに嫁いだ。
その職人は、いわゆる遊び人だった。
そして、おしんさんは其の職人から病をうつされた。恐らく梅毒だったのだろう。
おしんさんは其の職人と離別し、実家に戻った。その数年後、実家で亡くなった。
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ここで話が飛ぶが、私の父は、父の故郷に在る墓を、私が、現在、住んでいる所に改葬した。
その墓には、おしんさんの遺骨もあった。
私は長男であるため、私の両親は、私が現在住んでいる近くに引っ越してきて、その際、上記した墓も改葬したのである。
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父の死後、私は父の除籍謄本を取り寄せた。(その謄本は、現在、手元に置いてない。)
私は其の父の除籍謄本によって、おしんさんの、結婚による実家からの除籍年月、さらに離婚による実家への再入籍、そして実家での病死年月を知ることになった。
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実は、私は、父の死後、父の改葬した墓を、或る理由により更に改葬した。
その際、私は、おしんさんの遺骨の入った骨壺と一夜を共にすることになった。
その夜、寝ている私の傍に、おしんさんが現れるのではないかと思った。
もし、現れたら、おしんさんの人生を訊こうと思っていた。
しかし、おしんさんは現われなかった。
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除籍謄本というものは、事実のみを箇条書きに書いてある。
漢字とカタカナだけのみで書かれた、おしんさんの、実家からの除籍や入籍年月を見たとき、決して幸福だったとは言えそうもない、逢ったことのない此の伯母の人生を私は想うのである。