2016年8月3日水曜日

一目惚ひとめぼれ

私の、こしかたを顧みるとき、いわゆる『一目惚ひとめぼれ』をの体験があっただろうか?

と思って、我が頭の記憶装置を詮索してみると、一つだけ、あったような気がする。

勿論、私は異性で好きな人は、人並に、その時期、その時期に「手を変え、品を変え」居た。小学生の頃から大学生の頃までに居た。

しかし、その人々は、「一目惚ひとめぼれ」では、なかったような気がする。

(その人々の名前は今でも覚えている。それを此処に書き並べてもよいが、もしかしたら、差しさわりがあるかも知れないから止める。)

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では、いわゆる『一目惚ひとめぼれ』は皆無だったとは言えないような気もする。一つだけアレがそうだったのかな、という思いあたることがある。

それはーーー

今から20年程前だっただろうか。私は或る病院へ定期的に通っていた(現在もそうだが)。
或るときの病院の待合室でのことである。

一人の若い、というか、中年というか、私は女性の歳をあてるのは苦手であるから、一応若い女性としておく。

その女性が待合室の椅子の端に独り座って、待合室の受付をジッと見つめていた。

ご存知のように病院の待合室は、たいてい混んでいて、薬などを貰うには大いに待たされるのである。その待っている時間は、ひどいときには一時間以上はザラである

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にも関わらず、その女性は・・・私が何気なく気付いてから・・・ひたすら、受付をジッと見つめていた。両脚はきちんと揃え、髪の毛もキチンと揃え、小さなバッグを膝の上に載せ、ただ、ひたすら、受付をジッと見つめていた。

其の受付では自分の番がくれば、###さんと呼ぶ。だから別に、それまで本を読むなり狸寝入りしていればいいのに、その女性はひたすら、受付をジッと見つめていた。

だから、私は・・・その女性から数m離れて椅子に座っていたのだが・・・その女性に関心を抱いていることに自身気づいた。

そして其の女性に好感をもった。

勿論、何処の誰だか知るはずがない初めて見る人だった。

これが、私の『一目惚ひとめぼれ』だったように思う。

このこと以来、其の女性に会ったことは一度もない。

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芥川龍之介の随筆『点心』の中に『蕗』という短い佳品がある。

上記した件に関係なくもない。読んだ人は少ないだろうから、全文をコピペしてみよう。
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坂になった路の土が、砥との粉このやうに乾いてゐる。寂しい山間の町だから、路には石塊いしころも少くない。両側りやうがはには古いこけら葺ぶきの家が、ひつそりと日光を浴びてゐる。僕等二人ふたりの中学生は、その路をせかせか上のぼつて行つた。すると赤ん坊を背負せおつた少女が一人、濃い影を足もとに落しながら、静に坂を下くだつて来た。少女は袖そでのまくれた手に、茎の長い蕗ふきをかざしてゐる。何なんの為めかと思つたら、それは真夏の日光が、すやすや寝入つた赤ん坊の顔へ、当らぬ為の蕗であつた。僕等二人はすれ違ふ時に、そつと微笑を交換した。が、少女はそれも知らないやうに、やはり静に通りすぎた。かすかに頬ほほが日に焼けた、大様おほやうの顔だちの少女である。その顔が未いまだにどうかすると、はつきり記憶に浮ぶ事がある。里見さとみ君の所謂いはゆる一目惚ひとめぼれとは、こんな心もちを云ふのかも知れない。(二月十日)
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